♥ 「幸せの形と見つけ方」

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仕事もあるし、友達もいる。休日にはちょっとした趣味だってある。

客観的に見れば、ある程度恵まれた状況なのに、幸せを感じることが

できない―。

ここ数年、診察室を訪れる方に、そんな“幸せ不感症”の女性が増えて

います。

まじめで努力を惜しまない人こそ、こういった状況に陥りやすいんです

ね。

キャリア形成のための自己啓発本を手に取ったら、全部その通りに実行

しないと気が済まない。

ちょっとでも手を抜くと自己嫌悪に陥ってしまう。

成功している女性と自分を比べて、“私はダメだ”と落ち込んだり…。

最近では、妻であり、母であり、キャリアウーマンであり、しかもおしゃ

れという女性がもてはやされていますから、そういう人を目指さなくては

いけないと思い込んでしまう。

もちろん、目標を持って頑張るのはいいことですが、疲れてイライラし

た揚げ句、心を病んでしまうケースもとても多いんです。

“このままじゃいけない”と漠然とした不安を抱えているけれど、どうす

ればいいか分からない。

そんな人に限って“じゃあ、あなたにとって幸せって？”と問われると、

実は明確な答えがなかったりする。

自分の基準がないから、他人と比べて判断してしまうんですね。

でも、いろいろなものを兼ね備えているように見える人たちだって、それ

なりの悩みを抱えているもの。

実際、憧れとされる人のなかにも、見せかけの華やかな生活に疲れて診察

室を訪れる人も少なくありません。

その人の光の部分だけを見て、自分もそうなれば幸せになれると決めつけ

てしまっているんですね。

そこに潜む裏側はどうか、相手の立場を考える想像力が薄れているように

思います。

その原因のひとつに、勝ちか負けか、○か×かで、デジタル的に物事を判断

してしまう結果主義が強まっているという背景があります。

○と×の間にあるグレーゾーンを考えられない。

例えば、“自分には何もない”と悩む人の話をよく聞いてみると、過去に

留学をしていたりする。

「素晴らしい経験ですね」

と言っても、

「仕事に生かせていないから意味がない」

と否定してしまう。

留学で得た経験は、必ずその人の中に蓄積されているのに、今この瞬間に

役立っていないというだけで、なかったこととして処理されてしまうの

は、もったいないですよね。

人間関係でも、職場に嫌な人がいると、その人の考えを理解しようとせ

ず、単に排除しようと考えてしまう。

何事もスピーディーに決めて行動するのがカッコいいと思いがちですが、

こんな白か黒の判断をしていると、日常の小さな幸せに気づけなくなりま

す。

そして、その果てに待っているのは“幸せ不感症”という不幸せ。

本来、人間は半径数メートルの身近なところに幸せを感じるものだと思う

んです。

私の中のすごく幸せな思い出って、学生時代、マクドナルドで5個入りの

ナゲットが6個入っていたこと。

当時、試験で追い詰められていたのに、それを見た瞬間、光が差したよう

にうれしかった。

本がどんなに売れても、その幸せ感は超えません（笑）。

本が売れても、買ってくれている人全員の顔を見ているわけではないの

で、実感がわかないんです。

最近、食べ終わったはずのチョコが、箱に1つ残っていたのもうれしかっ

たな。

そんなふうに、もっと“幸せ”をラクに考えてみたらどうでしょうか。

ランチのパスタがおいしかったとか、雨が上がってうれしいとか。

そんな普通の幸せは日常にたくさんあるものです。

「幸せになる」ことにこだわりすぎず、しがみつかない。

今の自分はマイナスだと否定せず、ひとまず合格点と考えて、その上

で“こんなことがあったらもうちょっと楽しいかな”と感じることを、オ

プショナルで足していけばいいと思います。

日経ウーマン 2009年11月号掲載記事を転載