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自由できままな風のひとり言
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先日の日記「雪絵ちゃんとの最後の約束」で話をされた特別支援学級教

諭・山元加津子さんの『致知』1997年11月号への寄稿記事です。

妹は私の誇りです

きいちゃんという女の子は、手足が不自由でした。

そして、いつもうつむきがちの、どちらかというと暗い感じのするお子さ

んでした。

そのきいちゃんが、ある日とてもうれしそうな顔で、「山元先生」と言っ

て職員室に飛び込んできてくれたのです。

「お姉さんが結婚するのよ、今度私、結婚式出るのよ。ねえ、結婚式って

どんななの,私どんな洋服着ようかな」と、とてもうれしそうでした。

「そう、良かったね」

と、私もうれしくなりました。

ところが、それから一週間もしないころ、今度はきいちゃんが教室で泣い

ている姿を見つけたのです。

「きいちゃんどうして泣いているの」

と聞くと、 「お母さんが、結婚式に出ないでって言うの。

私のことが恥ずかしいのよ。

お姉ちゃんばっかり可愛いんだわ。

私なんか産まなきゃ良かったのに」

とそう言って泣いているのです。


きいちゃんのお母さんは、お姉さんのことばかり可愛がるような方ではあ

りません。

どちらかというと、かえってきいちゃんのことをいつも可愛がっておられ

て、目の中に入れても痛くないと思っておられるような方でした。

けれど、もしかしたら、きいちゃんが結婚式に出ることで、例えば障害の

ある子が生まれるんじゃないかと思われたり、お姉さんが肩身の狭い思い

をするんじゃないかというようなことをお母さんが考えられたのかなと、

私は思ったりしていました。

きいちゃんに何と言ってあげていいかわかりませんでしたが、ただ、結婚

式のプレゼントを一緒に作ろうかと言ったのです。

お金がなかったので、安い晒(さら)しの生地を買ってきて、きいちゃん

と一緒にそれを夕日の色に染めたのです。それでお姉さんに浴衣を縫って

あげようと提案しました。

でもきいちゃんは手が不自由なので、きっとうまく縫えないだろうなと思

っていました。

けれど一針でも二針でもいいし、ミシンもあるし、私もお手伝いしてもい

いからと思っていました。

けれどきいちゃんは頑張りました。

最初は手に血豆をいっぱい作って、血をたくさん流しながら練習しまし

た。一所懸命にほとんど一人で仕上げたのです。

とても素敵な浴衣になったので、お姉さんのところに急いで送りまし
た。

するとお姉さんから電話がかかってきて、きいちゃんだけでなく、私も結

婚式に出てくださいと言うのです。

お母さんの気持ちを考えてどうしようかと思いましたが、お母さんに伺う

と、 「それがあの子の気持ちですから出てやってください」

とおっしゃるので、出ることにしました。

お姉さんはとても綺麗で、幸せそうでした。

でも、きいちゃんの姿を見て、何かひそひそお話をする方がおられるの

で、私は、きいちゃんはどう思っているだろう、来ないほうが良かったん

だろうかと思っていました。

そんなときにお色直しから扉を開けて出てこられたお姉さんは、驚いたこ

とに、きいちゃんが縫ったあの浴衣を着ていました。

一生に一度、あれも着たいこれも着たいと思う披露宴に、きいちゃんの浴

衣を着てくださったのです。

そして、お姉さんは旦那さんとなられる方とマイクの前に立たれ、私とき

いちゃんをそばに呼んで次のようなお話をされたのです。

「この浴衣は私の妹が縫ってくれました。私の妹は小さいときに高い熱が

出て、手足が不自由です、でもこんなに素敵な浴衣を縫ってくれたんです。

高校生でこんな素敵な浴衣が縫える人は、いったい何人いるでしょうか。

妹は小さいときに病気になって、家族から離れて生活しなければなりませ

んでした。

私のことを恨んでるんじゃないかと思ったこともありました。

でもそうじゃなくて、私のためにこんなに素敵な浴衣を縫ってくれたんです。

私はこれから妹のことを、大切に誇りに思って生きていこうと思います」
 
会場から大きな大きな拍手が沸きました。

きいちゃんもとてもうれしそうでした。

お姉さんは、それまで何もできない子という思いできいちゃんを見ていた

そうです。

でもそうじゃないとわかったときに、きいちゃんはきいちゃんとして生ま

れて、きいちゃんとして生きてきた。

これからもきいちゃんとして生きていくのに、もしここで隠すようなこと

があったら、きいちゃんの人生はどんなに淋しいものになるんだろう。

この子はこの子でいいんだ、それが素敵なんだということを皆さんの前で

話されたのです。

きいちゃんはそのことがあってから、とても明るくなりました。

そして「私は和裁を習いたい」と言って、和裁を一生の仕事に選んだのです。
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